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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)703号 判決

原告

甲野太郎

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

藤沢抱一

佐竹俊之

被告

学校法人日本医科大学

右代表者理事

永井氾

右訴訟代理人弁護士

今井文雄

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告甲野太郎に対し金三六〇〇万四五六〇円、同甲野花子に対し金三三六四万八九八五円、同乙山良子に対し金三六七万円及び同乙山一夫に対し金一二七万円並びにこれらに対する平成元年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(一) 原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)は甲野京子(以下「京子」という。)の父、原告甲野花子(以下「原告花子」という。)は京子の母、原告乙山良子(以下「原告良子」という。)は京子の姉、原告乙山一夫(以下「原告一夫」という。)は原告良子の夫である。

(二) 被告は、神経科を含む総合病院である日本医科大学付属第一病院(以下「被告病院」という。)を経営し、医療活動を行っている。

越智眞理子医師(以下「越智医師」という。)は、同病院神経科に勤務する医師で、主治医として京子の診療に当たったものである。

2  (入院診療契約の締結)

昭和六一年九月八日、原告太郎及び花子、又は京子、被告との間で、京子の精神疾患の治療、看護を目的とした入院診療契約を締結した。

3  (京子の自殺)

京子は、昭和六一年九月一七日から被告病院に入院したが、昭和六二年一月二二日午後九時ころから翌二三日午前一時ころまでの間に病室を抜け出し、被告病院の屋上にある煙突(以下「本件煙突」という。)内に身を投げて自殺した。

4  (被告の京子の死に対する結果予見・回避義務違反)

(一) 被告は、前記2の入院診療契約に基づき、京子の精神状態につき、現在の精神医学の知識と技術を駆使して有効な診療行為を行うとともに、同人の生命、身体の安全を確保し、事故を防止する義務を負っていた。

(二) しかるに、被告は、以下のとおり右義務の履行を怠り、京子を自殺させるに至らしめた。

(1) 京子は躁鬱病に罹患していたところ、躁鬱病の患者は、自殺傾向、自殺頻度が高いこと、ことに、患者に希死念慮が存在する場合は、自殺発生の可能性が高いことは、精神医学的に認められた事実である。しかも、京子は行方不明になった当時、鬱から躁への移行期であったから、特にその自殺傾向は強まっていた。

したがって、越智医師は、京子の自殺を予見して、夜間における巡回時間の間隔を密にし、病室に入って患者の在室を直接確認するよう看護婦に指示し、あるいは、被告病院に対し看護婦の数を増やし、夜間はナースステーションの前を通らなければ外に出られないような部屋の配置にするよう指示するなどして、京子の自殺を防止する措置を取るべきであったのに、これを怠った。

(2) 精神病者の自殺防止の第一歩は、患者の苦悩感とそれをもたらした諸状況を共感的に理解し、受け止めようとする態度であるから、越智医師は、京子に対し、受容的な態度、優しさをもって接すべきであったのにこれを怠り、京子の訴えを聞き入れず、要求のみを押しつけ、京子に対し悪意、悪感情さえ持って接した。

(3) 被告病院は精神科の入院病棟を有しており、また、昭和五九年七月から同六三年六月三〇日までの間に同病院内で二件の飛び降り自殺が起こっている。このことからすれば京子入院当時においても、被告病院としては精神病患者の飛び降り自殺事故を充分に予測できたはずであるから、これを回避するために、入院患者が夜間屋上に出られないように出入口には鍵を掛け、また、本件煙突には登れないような装置を付けるか、梯子の下の部分を切除すべきであったのに、被告病院はこれを怠った。

5  (被告の捜索及び説明報告義務違反)

(一) 被告は、原告太郎及び同花子との間の入院診療契約に基づき又は条理上、原告ら近親者に対し、京子の失踪後、病院内及びその周辺を捜索すべき義務を負い、かつ、家族に被告の捜索状況を説明、報告するなどして、家族の捜索に協力すべき義務を負っていた。

(二) 京子が失踪したのは、昭和六二年一月二二日の午後九時以後二三日午前一時の間、すなわち厳冬期の夜中であり、病室には、靴、ガウン、オーバー、財布、テレホン・カード、住所録等が遺留されていたことから、スリッパ履きのパジャマ姿で何も持たずに病室を出たことがうかがわれ、また、被告病院で午後九時以後利用できる出入口は唯一正面玄関脇の通用口であるところ、その横の守衛室で当夜勤務していた守衛は、京子が出て行ったのは見ていないといっており、以上の状況から見て、京子は被告病院から外部には出ておらず、被告病院内にいることが強く推定されたのであるから、被告は、被告病院内及びその周辺並びに本件煙突について、京子の捜索を十分に行うべきであった。

しかるに、被告は、同月二四日午前一〇時ころ、原告らが被告病院を訪れて病院職員らに案内されて院内を見回った際に、医師一名が同煙突の上に登って覗いて見ただけで、以後一切同煙突の捜索を行わなかった。

(三) また、被告は、原告らに対し、原告らが院内の捜索状況の説明、報告を求め、その状況を記載したメモの交付を求めても、具体的な説明、報告をせず、メモの交付もなさず、家族の捜索に協力しなかった。

(四) 以上の被告の捜索義務違反及び説明、報告等の協力義務違反により、京子の発見は、失踪より一年四月も後まで遅れることとなった。

6  (損害)

(一) 昭和六一年賃金センサスによる女子労働者平均年収額は二三八万五五〇〇円である。京子は、死亡時二三歳で、平均労働可能年数は44.44年、その新ホフマン係数は22.923である。したがって、生活費控除率を三〇パーセントとすると、京子の逸失利益は、三八二七万七九七一円となる。

(二) 京子自身の死亡による慰謝料額は、一五〇〇万円が相当である。

(三) 原告太郎及び同花子は、右(一)及び(二)を、各二分の一の割合で相続した。

(四) 原告太郎は、京子失踪後、その捜索のために以下の支出をした。

煙突調査費用 二三万〇八〇〇円

死体検案書料 五〇〇〇円

交通費 五二万一七六〇円

宿泊費 三万三九三〇円

電話代 一三万一九六四円

写真代 四万五九五九円

録音代 三万一四二五円

通信・文具・コピー代

一〇万八九六七円

郵送料 八万一五〇〇円

捜索相談・謝礼 八八万一一七〇円

住民票・戸籍謄本取得費用八〇〇円

新聞折込料 六三〇〇円

合計 二〇七万九五七五円

(五) 原告らも、京子の死亡及びその遺体の発見の遅れに伴い精神的苦痛を被っており、その慰謝料額は次の額が相当である。

原告太郎 三〇〇万円

原告花子 三〇〇万円

原告良子 三〇〇万円

原告一夫 一〇〇万円

(六) 原告らは本件訴訟を提起するについて弁護士に依頼し、以下のとおり、日弁連報酬等基準規定第一八条に定める額を支払いあるいは支払う約束をした。

原告太郎 四二八万六〇〇〇円

原告花子 四〇一万〇〇〇〇円

原告良子 六七万〇〇〇〇円

原告一夫 二七万〇〇〇〇円

(七) 以上により、原告らはそれぞれ以下の額の損害を被った。

原告太郎 三六〇〇万四五六〇円

原告花子 三三六四万八九八五円

原告良子 三六七万〇〇〇〇円

原告一夫 一二七万〇〇〇〇円

7  よって、原告らは、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、原告太郎は三六〇〇万円四五六〇円、同花子は三三六四万八九八五円、同良子は三六七万円、同一夫は一二七万円及びそれぞれこれらに対する弁済期経過の後である平成元年六月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)(二)は認める。

2  請求原因2のうち、原告太郎及び同花子と被告との間に入院診療契約が成立したことは否認する。京子と被告との間に原告ら主張の入院診療契約が成立したことは認める。

3  請求原因3のうち、京子が昭和六一年九月一七日から被告病院に入院したことは認めるが、その余の事実は不知。

4(一)  請求原因4(一)は認める。

(二)  同(二)(1)のうち、京子は行方不明になった当時に鬱から躁への移行期であったことは認めるが、その余は争う。

(三)  同(二)(2)、(3)は争う。

5  請求原因5(一)ないし(四)は争う。

6  請求原因6(一)(二)(七)は争う。

同(三)ないし(六)は不知。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2(入院診療契約の締結)のうち、原告太郎及び同花子と被告病院の間で原告ら主張の入院診療契約が締結されたことはこれを認めるに足りる証拠がない。しかし、京子と被告病院の間で京子の精神疾患の治療、看護を目的とした入院診療契約が締結されたことは被告の自認するところである。

三請求原因3(京子の自殺)について検討する。

京子が昭和六一年九月一七日から被告病院に入院したことは当事者間に争いがない。

〈書証番号略〉、証人越智眞理子の証言及び原告甲野花子本人尋問の結果によれば、京子は、昭和六二年一月二一日の午後九時ころから翌二二日の午前一時までの間に、被告病院の病室から見当たらなくなって以後消息を絶ち、昭和六三年五月二六日本件煙突内の最深部で遺体となって発見されたことが明らかである。

右の事実と、〈書証番号略〉及び証人越智眞理子、同煙草嘉明の各証言を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  越智医師は、京子の病名につき、昭和六一年九月一七日の初診時には病的性格の疑いないしは躁鬱病の疑いとの診断をしたが、昭和六二年一月一九日には、躁鬱病と考えてよいとの所見を有するに至った。しかるに、自殺と関係する精神病の中では鬱病患者の自殺率が最も高いとされているところ、京子は、入院時から消息を絶つまでの間、医師や看護婦に対し、自殺したい旨話し掛けたことが何度もあった。

2  被告病院にはA館からD館までの四棟の建物が存在し、京子の病室はC館八階にある。C館はその一端をB館と接しており、B館は五階建ての建物で、C館六階の端の扉からB館屋上に出ることができ、C館の右扉及び京子の病室の出入口ドアは常時施錠されていない。

本件煙突は、B館のC館寄りの端側面に沿って地上から垂直にその上端がB館屋上に突き出る形で設置されている。高さは同屋上から7.32メートル、地上から26.28メートルで、内部の断面は七五センチメートル×一一三〇センチメートルの長方形である。当時、側面には金属製の梯子が設置されていて、B館屋上よりこの梯子を伝ってその上端まで登ることができ、この上端以外には人が出入りできる口はなかった。また、当時は排気ダクトの排気のためのみ使用されていた。

3  京子の遺体を鑑定した慶応義塾大学医学部法医学教室医師黒田直人及び同柳田純一は、京子の遺体の明らかな外傷として、第三及び第四頸椎椎間、第五及び第六頸椎椎間の各離開並びに第五頸椎右横突起における完全骨折が認められるが、これらは純器又は鈍体などによる頭部などに対する外力によって頸部を過伸展又は過捻転の状態に至らしめたために生じたものと推定され、仮にこれが生前の受傷であったならば極めて重症で、致命傷となったとしても矛盾はないものとの判断をした。

以上の京子の病状、本件煙突の構造、京子の病室との位置関係、京子の遺体に認められた外傷の状況等に照らせば、京子は前記病室を抜け出した後、自殺を企図して自ら本件煙突を登り、その上端から煙突内部に身を投げ、そのため前記のとおり受傷をして死に至ったものと認めるのが相当であり、この認定を動かすに足りる証拠はない。

四請求原因4(被告の京子の死に対する結果予見・回避義務違反)(一)は当事者間に争いがないので、同(二)について検討する。

1  請求原因4(二)(1)について

〈書証番号略〉(京子の入院診療録及び看護記録)によれば、京子は昭和六一年九月一七日被告病院入院後、病室から見当たらなくなる直前の昭和六二年一月二一日まで、前記のとおり被告病院の医師や看護婦との対話で、しばしば自殺を話題にしていたことが認められる。

しかし、〈書証番号略〉及び証人越智眞理子の証言によれば、京子は、失踪当時も意識は鮮明で、しばしばナースステーションを訪れるなどして医師、看護婦との意思の疎通もあり、自己の置かれている状況と自己の病状、治療の趣旨を理解し、自ら病状改善に向けて努力する姿勢を示していたこと、京子は、自殺を仄めかすことはあったものの、進んで自殺を決意、実行する気配は見られなかったこと、被告病院における開放的処遇を受けた結果、病状は一進一退の経過を経ながらも徐々に改善を見せてきていたこと、こうした状況から、越智医師は、京子に切迫した自殺の危険があるとは判断せず、通常行われている看護体制を京子の自殺防止のためにより密にするなどといった措置は取らなかったことがうかがわれ、このような事情の下では、越智医師が京子に切迫した自殺の危険を認めず、通常の看護体制を変更する必要はないと判断して、原告が請求原因4(二)(1)において指摘するような特段の自殺防止措置を取らなかったとしても、そのことに過失があったと認めることはできない。

2  請求原因4(二)(2)について

〈書証番号略〉を全体として検討すると、越智医師は、注意深く京子の観察を続けるとともに、出来る限りの応対をして京子に対し受容的に接していることがうかがわれ、他に原告らの請求原因4(二)(2)の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

3  請求原因4(二)(3)について

証人煙草嘉明の証言によれば、昭和五九年七月から同六三年六月三〇日の間に、被告病院では二件の飛び降り自殺事故が発生していることが認められる。しかし、〈書証番号略〉、証人越智眞理子及び同煙草嘉明の各証言によると、右自殺はいずれも窓から飛び降りるという形態のものであって、本件煙突を利用してのものではないこと、越智医師は、精神科医としての一五年にわたる経験の中で、患者が煙突内に飛び込むという事故にあったことはなく、かかる事故の報告を聞いたこともないこと、社団法人日本精神病院協会の医療事故対策委員会が行った昭和四七年一月から同五〇年一〇月までの間における患者の自殺自傷事故の事例調査においては、合計二七六件の報告事例のうち、建物の屋上や窓からの飛び降り事故は二一件あったものの、煙突内への飛び降りという事例は一件も報告されていないことが認められ、これらの事情並びに前記三2のとおりの被告病院の建物の構造、本件煙突の位置及び構造等に照らすと、被告病院の管理者において、入院患者が屋上からの高さが七メートルもある本件煙突に登ってその内部に身を投げるといった行為に出ることを予見することは極めて困難であったと考えられるから、右管理者に、原告らが請求原因4(二)(3)において指摘する回避措置を取るべき義務があったと認めることはできない。

五次に、請求原因5(被告の捜索及び説明報告義務違反)について検討する。

1  まず、原告太郎、同花子と被告との間に入院診療契約が締結されたことを認めるに足りる証拠がないこと前記のとおりであるから、原告の右主張のうち被告病院に右契約上原告指摘の捜索義務及び説明、報告等の協力義務があるとの主張が理由のないことは明らかである。

また、本件のように入院中の精神疾患患者が失踪した場合においては、条理上、医療機関としては失踪患者の近親者に対し、医療施設内の相当と考えられる捜索を誠実に実施し、あるいは近親者に対し捜索の結果について適切に説明、報告する等してその捜索に協力する義務はあると考えられる。

2  そこで、検討するに、京子は昭和六二年一月二二日の午後九時から翌二三日午前一時までの間に病室を離れ、消息を絶ったことは前記認定のとおりであり、また、〈書証番号略〉、証人越智眞理子の証言及び原告甲野花子本人尋問の結果によれば、昭和六二年一月二三日被告病院の職員が京子の不在に気づいた当時、京子の病室にはオーバー、ガウン、靴、財布、住所録、テレホンカード等が遺留されていたことから、京子はパジャマ姿にスリッパ履きのままの服装で、所持金を持たずに部屋を出たものと推定され、〈書証番号略〉及び証人煙草嘉明の証言によれば、被告病院において午後九時以降夜間に通常使用できる出入口は正面玄関脇の通用門のみであり、その横で当夜勤務していた守衛は、京子が病院外に出ていく姿は見ていないことが認められ、これらの事情から、被告病院職員が京子の不在に気づいた当時、京子は未だ被告病院内に留まっていると推定するのが合理的であると考えられる状況にあったこと、しかし、昭和六三年五月二六日原告らの強い要請により再度の本件煙突内の捜索が実施されるまで、遂に京子は発見されるに至らなかったことが一応認められる。

また、原告らは、昭和六二年一月二六日ころ及び同月二八日ころには被告病院長に対し、同月三一日ころには越智医師に対し、それぞれ被告の捜索状況についてメモによる報告を求めるなど、原告らが京子失踪後その発見にいたるまでに被告病院側に何度かその捜索状況の報告を求めたが、病院側が、メモによる報告要求には応じなかったことは、〈書証番号略〉及び原告甲野花子本人尋問の結果により明らかである。

3  しかし、〈書証番号略〉、証人越智眞理子、同煙草嘉明の各証言及び原告甲野花子の本人尋問の結果によれば、昭和六二年一月二三日以降に被告病院が行った京子の捜索の状況等として以下の事実が認められる。

昭和六二年一月二三日 京子の不在が発見され、直ちに被告病院の看護婦、医師、その他の職員らが手分けをして病院内各所を捜索したが、発見することができず、越智医師が原告花子や警察に電話で連絡した。

一月二四日 原告らが来院し、午前一〇時三〇分から午後一時四五分まで、越智医師らと病院内を捜索し、その際、被告病院勤務の荒井医師が本件煙突に登って中を覗き込んだが、京子を発見することができず、更に午前中被告病院職員一二名が院内を捜索し、午後は職員二名が、院内の普段余り人が立ち入らない場所まで捜索したが京子を発見することができなかった。

一月二六日 午前一〇時より一一時三〇分まで、被告病院は職員一四名をしてマンホール、ロッカー等、普通余り考えられないような場所を中心に捜索させ、更に原告らの希望により、原告らをして屋上倉庫、物置部屋等も捜索させた。

一月二七日 被告病院は、来院した原告花子、同良子及び同一夫らをしてB館屋上及び扉が閉まったままのトイレを捜索させた。

一月二八日 被告病院は、原告らに対し、エレベーターの上下を捜索したが京子は発見されなかったこと及び精神科の他の患者の話の内容を伝えた。

二月七日 この日以降、越智医師は数回の電話連絡の中で、原告らに対し、病院としては捜索すべき場所は全て捜索したこと、京子は病院の外に出たと思われること等を伝えた。

二月二八日 原告太郎、同花子及び同良子は、被告病院を訪れ、駐車場内のマンホールの捜索を許すよう求め、被告病院職員はこれを何度も断ったが結局これを許し、右原告らは被告病院内のマンホールの一部の捜索を実施したが、京子を発見することはできなかった。

八月八日 原告太郎から電話で当夜の当直体制について質問があったので、越智医師は、神経科の責任者が自分であることと、庶務課長の名が「煙草」であることを伝えた。

昭和六三年五月二六日 原告らの強い要請により再度本件煙突内の捜索が実施された結果、ようやく京子が発見されるに至った。

4  右3認定の事実並びに前記三2及び四3において認定説示したとおり被告病院の建物の構造、本件煙突の位置及び構造その他の事情から当時京子が本件煙突内に入っていると推測するのは極めて困難な状況であったことを考えると、本件において被告としては、条理上必要と考えられる病院内の捜索を自ら実施し、その状況を原告らに説明、報告するなどして、原告らの捜索に十分協力しているものと認められ、それ以上に原告らが指摘する捜索を実施し、あるいはその状況を説明、報告して原告らの捜索に協力すべき義務があったと認めることはできず(特にメモによる報告義務があるとする根拠はない。)、結局前記認定事実によれば、被告には原告らが請求原因5において主張する捜索義務違反、説明、報告義務違反等の違法行為があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

六(結論)

以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないことが明らかであってこれを棄却すべきである。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小川英明 裁判官山田俊雄 裁判官内田博久)

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